会社が成長してくると、経理、労務、総務、契約管理といった「会社を回すための仕事」が少しずつ増えていきます。気づけば社長や現場のリーダーが、本業の合間にこれらをこなしている——成長している会社ほど、よくある状況です。この記事では、管理部門(バックオフィス)をゼロから立ち上げるときに、人を採る前に整えておくと楽になることを、順番に整理します。
管理部門の立ち上げというと、「経験者を採用する」ことを思い浮かべがちです。もちろんそれも有力な選択肢ですが、先に仕事の中身と流れを見える形にしておくと、誰が担当しても回りやすくなり、採用や外部活用の判断もしやすくなります。
管理部門が「立ち上がりにくい」のは、仕組みの問題です
管理業務は、売上に直接つながらないため、どうしても後回しになりやすい仕事です。さらに、会社の成長スピードに仕組みの整備が追いつかないのは、ごく自然なことです。創業期は社長が全部できていたものが、人が増え、取引が増えるにつれて、一人では見きれなくなる。これは担当者の力量の問題ではなく、規模が変わったのに、仕事の進め方がまだ前のままである、という仕組みの問題です。
よく見られる兆しとしては、次のようなものがあります。
・入退社や契約の手続きが、その都度「誰がやるんだっけ」となる
・請求書や契約書の保管場所が、人によってばらばら
・特定の人が休むと、手続きが止まってしまう
ひとつでも当てはまれば、管理部門を整えるタイミングが来ていると考えて差し支えありません。逆に言えば、困りごとが小さいうちに手を付けるほど、整える負担も小さく済みます。
最初の一歩は、業務の棚卸し
最初にやることは、新しい仕組みを入れることではなく、今ある管理業務を書き出すことです。完璧な一覧でなくて構いません。「誰が・何を・いつ・どのくらいの時間で」行っているかを、ざっくり拾っていきます。
書き出す際は、次のような区分で見ていくと抜け漏れが出にくくなります。
人まわり:給与計算、社会保険・雇用保険の手続き、入退社対応、勤怠管理
会社まわり:契約書の管理、備品・オフィス、各種届出、許認可の更新、年間スケジュールの管理
棚卸しのとき、思いがけず見つかるのが「特定の人しか知らない手順」です。社長だけが分かっている取引先ごとの請求ルール、ベテラン社員だけが持っている手続きのコツなど。これらは、悪いものではなく、会社が積み上げてきた財産です。ただ、頭の中にあるうちは引き継ぎにくいため、手順として書き残す対象になります。
棚卸しの出来を判断する目安は、「担当者が1週間休んでも、手順を見れば誰かが進められるか」です。そうなっていなくても責める必要はなく、そこが次に整える場所だと分かれば十分です。
優先順位は「止まると困る順」と「月次で必ず発生する順」
棚卸しで出てきた業務を、すべて同時に整える必要はありません。優先順位をつけるときの切り口は、次の2つです。
ひとつめは、止まると影響が大きいもの。給与の支払い、社会保険の手続き、請求と入金の管理、税金や社会保険料の期限などです。期限があり、遅れると取引先や従業員、行政に影響が出るものを先に安定させます。
ふたつめは、毎月必ず発生するもの。月次の記帳と数字づくりは、その代表です。毎月繰り返す業務は、手順をひとつ整えるだけで効果が積み上がっていきます。月次の数字を早く出す工夫は、月次決算に時間がかかる会社の共通点で整理しています。
反対に、年に1回しか発生しないものや、緊急度の低いものは、後回しで構いません。「全部をきれいにしてから始める」よりも、「止まると困るところから順に安定させる」ほうが、現実には続けやすい進め方です。
内製と外部活用の切り分けの考え方
棚卸しと優先順位が見えてきたら、それぞれを社内で行うか、外部の力を借りるかを考えます。判断の軸は、次の3つで足ります。
② 社内の判断が必要か:承認や方針の判断は、社内に残す
③ 専門知識が必要か:法令や会計基準が絡む部分は、専門家の力を借りると安心
たとえば記帳や月次の数字づくり、給与計算といった定型業務は、手順化しやすく外部に任せやすい分野です。一方で、「この支出を認めるか」「この取引先と契約するか」といった判断は、社内に残ります。外部と社内の境目をはっきり決めておくと、「誰に聞けばよいか」が明確になり、やり取りの無駄が減ります。
経理まわりの依頼範囲や料金の目安については、経理代行と記帳代行の違いで比較の視点をまとめています。依頼先を選ぶときの考え方は、クラウド会計の選び方とあわせて見ていただくと、使うツールと外部の役割分担を整理しやすくなります。
採用するなら、任せる範囲を決めてから
業務が増えてきて、専任者を迎えたいというタイミングもあると思います。その場合も、先に棚卸しをしておくことが役に立ちます。任せたい業務の範囲と量が見えていれば、求人の内容も具体的になり、入社後に「思っていた仕事と違う」というすれ違いも起きにくくなります。
採用の際に意識しておきたいのは、次の点です。
・足りない専門性は、外部の専門家と組み合わせて補う
・入社前に、手順書や業務の流れをある程度残しておく
管理部門は、一人で抱え込む形になると、その人の負担が大きくなり、休みにくい体制にもなりがちです。担当者を支えるために、手順の見える化と、必要に応じた外部の力の組み合わせを、あらかじめ用意しておくと長続きしやすくなります。
立ち上げ後の1年で育てていくこと
管理部門は、一度作って終わりではなく、会社の成長に合わせて育てていくものです。立ち上げ後の1年は、次のような順に整えていくと、負担が偏りにくくなります。
最初の数か月は、毎月の定型業務(記帳、請求・入金、給与)を安定させることに集中します。ここが回りはじめると、月次の数字が翌月の早い時期に出るようになり、経営の判断材料として使えるようになります。
次の段階では、数字を見る習慣をつくります。月次の数字を社長だけでなく、必要な人と共有し、予算との差や資金の動きを確認する時間を取ります。予実の見方は予実管理の始め方に整理しています。数字を見る場があると、管理部門の仕事が「作業」から「経営を支える仕事」へ変わっていきます。
その先に、将来の資金調達や、会社の規模拡大に備えた規程・内部の仕組みの整備が見えてきます。ここまで整えておくと、金融機関への説明や、将来の取引先・投資家との対話でも、慌てずに対応しやすくなります。
どこから手をつけるか
今日からできることは、とてもシンプルです。まず、自社の管理業務を、思いつくままに書き出してみてください。誰が担当しているか、月に何時間くらいかかっているかを、感覚で構いませんので添えてみます。それを眺めると、「ここに手間がかかっている」「ここが特定の人頼みになっている」という場所が、自然と見えてきます。
そのうえで、止まると困るものと、毎月繰り返すものから、ひとつずつ手順を整えていく。この順番で進めれば、大きな投資をしなくても、管理部門の土台は少しずつ形になっていきます。
ChronoArtでは、会社の状況に応じて必要な範囲だけを選んでいただけます。会社の状況に応じて、相談から始める財務顧問、実務まで継続的に担う継続コンサルティング、IPO・M&A・資金調達などのスポット支援から、必要な範囲をお選びいただけます。管理部門の構築は個別テーマ支援としてもご相談いただけます。何から整えるか迷う段階でも構いません。現状を伺いながら一緒に整理しますので、お問い合わせからお気軽にご相談ください。
なお、本記事の内容は一般的な目安として整理したものです。労務や社会保険、法令に関わる個別の手続きについては、社会保険労務士など各分野の専門家や所管の窓口にご確認ください。
よくある質問
管理部門は何人規模から必要になりますか?
一般的な目安として、従業員が10名前後になるころから、社長や現場が兼務していた経理・労務・総務の手間が目立ちやすくなると言われます。ただし業種や取引の形によって差が大きいため、人数よりも「月次の数字が翌月に出ているか」「入退社や契約の手続きに時間がかかりすぎていないか」といった状況で判断するのが実態に合います。
最初に専任者を採用したほうがよいですか?
専任者の採用は、業務の量と内容が見えてから検討するのが一般的です。先に業務を棚卸しし、定型的な部分を仕組みや外部サービスで軽くしておくと、採用するときに任せたい範囲が明確になり、採用後のミスマッチも起こりにくくなります。
管理部門の業務を外部に任せる場合、どこまで依頼できますか?
記帳・月次の数字づくり・給与計算・社会保険の手続きなど、定型的で手順化しやすい業務は外部に切り出しやすい分野です。一方、社内の判断が必要な承認や、取引先との関係づくりは社内に残すのが一般的です。依頼範囲と料金は事業者によって異なるため、具体的な内容は個別に確認することをおすすめします。