経理まわりを外に頼もうと調べ始めると、「経理代行」と「記帳代行」という似た言葉に行き当たります。どちらも同じように見えるのに、見積りを取ると金額が大きく違う——この戸惑いは、とてもよくあるものです。実はこの2つ、担っている工程が違うため、比較の土俵がそもそも同じではありません。この記事では、両者がどこで分かれているのかを工程の順序で整理し、料金の決まり方の違い、そして自社にはどちらの範囲が合うのかを判断する材料を整理します。
名称が紛らわしいのは、定義が決まっていないから
最初にお伝えしておくと、「経理代行」も「記帳代行」も、法律や公的なルールで範囲が決められた言葉ではありません。事業者が自社のサービス内容に付けている名称です。そのため、A社の「記帳代行」がB社の「経理代行」とほぼ同じ内容だった、ということも実際に起こります。
比較して混乱してしまうのは、読み手側の理解が足りないからではなく、業界として言葉の使い方が揃っていないことに理由があります。ですので、名称で判断しようとせず、「どの作業を、誰が、いつまでにやるのか」という項目単位で見ていくのが確実です。
とはいえ、おおまかな傾向はあります。一般的には、記帳代行は記録を作る工程を、経理代行はお金を動かす工程を含む日々の事務全般を指すことが多い、と捉えておくと大きくは外れません。この違いを、次の章で工程の並びとして見ていきます。
経理の仕事を「工程」で並べてみる
両者の境目を掴むには、経理という仕事を時系列の工程として並べてみるのが分かりやすい方法です。ひとつの取引は、だいたい次のような順序で流れていきます。
① 請求書を作って送る/受け取る
売上の請求書を発行して取引先に送り、仕入や外注からの請求書を受け取って内容を確認する工程です。
② 入金を確認し、支払を準備する
通帳の入金を請求と突き合わせる消し込み、支払期日の管理、振込データの作成。経費精算や小口現金の管理もここに入ります。
③ 資料を集めて会計データにする
領収書・請求書・通帳・カード明細などを整理し、勘定科目を判断して仕訳として入力する工程です。
④ 残高を照合し、試算表としてまとめる
預金残高や売掛・買掛の残高を突き合わせ、月次の試算表として形にする工程です。
⑤ 数字を読み、判断につなげる
できあがった試算表を経営の判断材料として読み解き、資金繰りや事業計画に反映していく工程です。
この並びでいうと、記帳代行が担うのは主に③と④、経理代行が担うのは①②を含めた日々の事務と、③④の一部、という関係になります。⑤はどちらの守備範囲でもないことが多く、税理士や外部CFOの領域として切り分けられます。この4者の役割分担については外部CFO・税理士・経理代行の違いと使い分けで詳しく整理しています。
記帳代行の依頼範囲
記帳代行は、手元にある資料を会計データに変換する工程を引き受けるサービスです。多くの場合、月に一度まとめて資料を渡し、会計ソフトへの入力と試算表の作成を受け取る、という流れになります。
記帳代行
- 主に含まれること
- 領収書・請求書・通帳・カード明細の整理、仕訳入力、勘定科目の判断、預金や売掛・買掛の残高照合、月次試算表の作成、会計ソフトへのデータ登録。
- 含まれないことが多いこと
- 請求書の発行、入金の消し込み、支払データの作成、経費精算の処理、給与計算、税務申告書の作成。
- やり取りの頻度
- 月次でまとめて。資料の受け渡しと不明点の確認が中心。
- 向いている場面
- 日々の請求や支払は社内で回せているが、それを会計の形にする作業に時間がかかりやすいとき。
記帳代行の価値は、単に入力を代わってもらえることだけではありません。勘定科目の判断が毎月同じ基準で揃うため、月ごとの数字を比較できるようになるという効果があります。社内で担当が変わったり、忙しさによって処理の仕方が揺れたりすると、数字の連続性が保ちにくくなるものですが、外に出すことで基準が固定されやすくなります。
費用がどう決まるか、見積りのタイプにどんな違いがあるかは記帳代行の料金相場|費用の決まり方と失敗しない選び方にまとめていますので、金額の比較を検討中の方はあわせてご覧ください。
経理代行の依頼範囲
経理代行は、記帳よりも手前の「日々のお金の事務」まで引き受ける形を指すことが一般的です。社内に経理担当を置く代わりに、その業務の一部または大半を外部に置くイメージに近くなります。
経理代行
- 主に含まれること
- 請求書の発行と送付、入金確認と消し込み、支払期日の管理、振込データの作成、経費精算の処理、支払通知や取引先とのやり取りの一部、そして記帳代行の範囲(仕訳入力・試算表作成)。給与計算まわりの事務を含む場合もあります。
- 含まれないことが多いこと
- 税務申告書の作成・提出(税理士の業務)、実際の振込実行や資金移動の承認(会社側で行うのが通常)、経営判断そのもの。
- やり取りの頻度
- 週次〜日次。締め日や支払日のスケジュールに沿って動きます。
- 向いている場面
- 請求・入金確認・支払準備といった日常の事務が積み重なり、他の業務に手が回りにくくなっているとき。
ここで押さえておきたいのは、お金を実際に動かす部分は会社側に残るのが通常だという点です。振込データの作成までを外部が行い、最終的な承認と実行は会社が行う、という分担がよく採られます。これは手間を残すためではなく、内部統制の考え方として、記録する人と実行する人を分けておくほうが安全だからです。銀行のインターネットバンキングの権限設計も、この分担を前提に組むことになります。
料金の決まり方が違う
2つのサービスで見積り金額が大きく違うのは、そもそも料金の計算根拠が異なるためです。ここを理解しておくと、見積りの妥当性を判断しやすくなります。
記帳代行の料金
- 主な変動要因
- 月あたりの仕訳数(取引件数)。加えて、資料がデータで揃っているか紙が中心か、といった状態も工数に影響します。
- 金額の目安
- 一般的な目安として、取引量の少ない会社で月額1万円台から、取引が増えるにつれて数万円規模に。仕訳数の段階ごとに料金が上がる方式が多く見られます。
- 比べるときの単位
- 「仕訳何件までで月額いくら」。超過した場合の単価も確認しておくと予算が読みやすくなります。
経理代行の料金
- 主な変動要因
- 担当者の作業時間。対象業務の種類と件数(請求書の発行枚数、支払先の数、経費精算の件数など)、対応の頻度が積み上がります。
- 金額の目安
- 業務範囲によって幅が大きく、記帳代行より高くなるのが通例です。作業時間に比例する構造のため、範囲を広げるほど費用も上がります。
- 比べるときの単位
- 「どの業務を、月何件まで、どの頻度で」。時間単価制の場合は、月の想定時間と上限の扱いも確認しておくと安心です。
金額だけを並べると経理代行が割高に見えますが、比べる対象が違うことに注意が必要です。経理代行の場合、代わりに社内で人を雇う選択肢との比較になります。人件費に加えて、採用・教育・引き継ぎにかかる時間や、担当者が不在になったときのリスクまで含めて考えると、判断の材料が揃います。
どちらが自社に合うかの判断軸
どちらを選ぶかは、規模の大小よりも、今どこに時間が取られているかで決まります。次の2つの見方が役に立ちます。
見方① 負担が発生するタイミング。月末や決算前にまとめて作業が発生しているなら、負担の中心は③④の記録工程にあります。この場合は記帳代行の範囲が合います。一方、毎日のように請求書を作り、入金を確認し、支払の準備をしている状態であれば、負担の中心は①②です。ここは記帳代行では引き取れない領域なので、経理代行の範囲で考えることになります。
見方② 止まると困る業務があるか。担当の方が休むと請求書の発行が止まる、支払の準備が進まない——そうした状態であれば、業務が特定の人に集中している構造そのものが課題です。外部に一部を置くことで、この集中を緩めることができます。これは担当者の力量の問題ではなく、少人数の組織では自然に起きる構造的なことです。
なお、両方を一度に決める必要はありません。記帳代行から始めて、必要が出てきたら範囲を広げるという順序は、費用面でも運用面でも進めやすい方法です。まず記録が整うと、どの業務にどれだけ時間がかかっているかも見えやすくなり、次に何を外に出すかの判断がしやすくなります。
創業まもない時期にどこまで整えておくとよいかは創業期に整える経理の基本も参考になります。
見積りを比べるときに確認したい5項目
複数社から見積りを取るとき、名称と月額だけでは比較になりません。次の5つを同じ形で聞いておくと、条件を揃えて並べられます。
- 業務項目のリスト:どの作業が含まれ、どれが含まれないか。「経理業務一式」ではなく、項目単位で書き出してもらう。
- 前提となる件数・数量:仕訳数、請求書の発行枚数、支払先の数など。超過したときの扱いもあわせて。
- 資料の渡し方と締切:いつまでに何を渡せば、いつ試算表が出るのか。この納期が、月次を経営に使えるかどうかを左右します。
- 使用する会計ソフトとデータの所有:契約が終わったときにデータをどう引き継げるか。自社名義の会計ソフトを使う形だと移行の負担が軽くなります。
- 窓口と連絡手段:担当が固定か、チャットで随時聞けるのか。質問への回答が別料金かどうかも確認しておくと安心です。
とりわけ3つ目の納期は、後になって効いてくる項目です。試算表が翌々月に出てくる運用だと、数字を見た時点ではすでに次の判断のタイミングを過ぎていることが起こります。月次のスピードを上げる考え方は月次決算に時間がかかる会社の共通点に整理しています。
頼んだあとに残る仕事もある
外注すればすべてが手を離れる、というわけではない点も先に見ておくと、導入がスムーズになります。どちらのサービスでも、会社側には次のような役割が残るのが一般的です。
- 資料を渡すこと:領収書やレシート、契約書などを月に一度まとめて共有する作業。ここが滞ると全体が止まるため、渡し方の型を決めておくと楽になります。
- 内容の確認に答えること:この支出は何の費用か、この入金は誰からか——取引の背景を知っているのは会社側だけなので、質問への回答は残ります。
- お金を動かす判断と実行:振込の承認、支払の可否、与信の判断など。
- できあがった数字を見ること:試算表が届いても、開かないままだと判断には結びつきません。月に一度、短時間でも見る時間を決めておくと定着しやすくなります。
この最後のひとつが、外注の効果を最も左右する部分です。記録が整うこと自体がゴールではなく、整った数字を使って判断ができるようになることが目的だからです。数字を経営に使う形に変えていく進め方は「どんぶり経営」から抜け出す第一歩もご覧ください。
ChronoArtでは、会社の状況に応じて必要な範囲だけを選んでいただけます。会計データを整えるところからであれば記帳ミニマム、毎月の数字を一緒に見ながら判断につなげたい場合は月次面談、資金繰り管理から事業計画・金融機関対応まで伴走してほしい場合は財務伴走をご覧ください。どこまでを外に出すか決めきれていない段階でも構いません。現状を伺いながら一緒に線引きを整理しますので、お問い合わせからお気軽にご相談ください。
まとめ
経理代行と記帳代行は、名称に明確な定義がないため紛らわしく見えますが、担う工程で切り分けると整理できます。記帳代行は資料を会計データにする「記録を作る」工程、経理代行は請求・入金確認・支払準備といった「日々のお金の事務」を含む範囲です。料金の根拠も、前者は仕訳数、後者は作業時間と異なります。選ぶ際は名称ではなく業務項目のリストで比較し、自社の負担がどの工程で発生しているかを起点に考えると、判断しやすくなります。まずは記帳から始めて範囲を広げていく進め方も、十分に現実的な選択肢です。
よくある質問
経理代行と記帳代行の違いは何ですか?
記帳代行は、領収書や通帳などの資料をもとに会計データを作る「記録を作る」業務が中心です。一方の経理代行は、その手前にある請求書の発行、入金の消し込み、支払データの作成、経費精算、給与計算まわりの事務など、日々のお金の流れを回す業務まで含むことが一般的です。ただし呼び方に法的な定義があるわけではなく、事業者によって範囲の線引きは異なります。名称ではなく、具体的な業務項目で確認するのが確実です。
料金はどのくらい違いますか?
一般的な目安として、記帳代行は月の仕訳数に応じた料金が中心で、取引量の少ない会社であれば月額1万円台から、取引が増えるにつれて数万円規模になることが多いようです。経理代行は担当者の作業時間に比例するため、対応する業務の範囲と件数によって幅が大きく、記帳代行より高くなるのが通例です。金額そのものより、どこまでを任せていくら、という単位で比較すると判断しやすくなります。
どちらを選べばよいか迷ったときの判断軸はありますか?
月末にまとまった作業として発生しているのか、日々こまごまと発生しているのかで切り分けると考えやすくなります。決算や試算表のために記録を整える作業が負担であれば記帳代行、請求・入金確認・支払準備といった日常の事務に時間を取られているのであれば経理代行の範囲が合います。まずは記帳代行から始めて、必要に応じて範囲を広げていく進め方も現実的です。